恵比寿日和

ブノワトンのパンのこと

ブノワアトンの高橋さんが亡くなった、との突然の訃報を受けた。
伊勢原の本店は来年3月で閉店するという。

パン屋さんは全国津々浦々いろいろあれど、「自分が一番好きなパン屋さんは?」と問われると「ブノワトン!」とためらいなく答える。
パンも好きだし、何より高橋さんの人柄が、そしてパンに賭ける人一倍の情熱に心打たれるものがあった。
国産の小麦、しかも地元の湘南ブランドの小麦作りに情熱を傾け、種まきから~製パンまで一貫してパンづくりに取り組む姿は、若き宣教師のようにも見えた。

小麦を育て、収穫し、管理し、石臼という小麦のおいしさを最も引き出す製法にこだわって製粉する。その工程を経てやっと、パン作りがスタートする。普通なら人任せにしていることに高橋さんは最も情熱を注いでいた。
気の遠くなるような手間のかかる工程、そしてそれに伴う経営的なリスクの大きさは想像を絶するものがあっただろう。

パンは本当に生き物だ。自分で手作りするとよくわかる。
厳選された材料、最適な環境、そして作り手のコンディション......そのすべてが充実していないと、美味しく焼きあがってくれない。
高橋さんは、朝小麦粉に手を入れて、今日はだめだと思うとその小麦を使わなくする日もあったという。彼が「麦師」といわれるゆえんでもあろう。

彼の思いは一体どれだけの人に夢を与えてくれただろう。
そしてどれだけの人を喜ばせてくれただろう。
人は、パンひとつからでも、希望をもつことができる。

さわやかな高橋さんの笑顔を思い出しながら、私たちもそんな志を忘れてはいけないと思った。

                                             

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