恵比寿日和

私の好きな本 その5 「建築の詩人 カルロ・スカルパ」

私の好きな本4

私がご紹介するのは

建築の詩人 カルロスカルパ/著 斎藤 裕 TOTO出版

です。

 

この本を私は持っていません。

なんだか手に入れる事も勿体ないような気がしているスペシャルな存在です。

 

学生のとき、ぼんやり選んだ建築コースで出た課題、「住宅十選」。

好きな建築家の住宅の平面図を10件手書きでトレースするという一週間の課題が出ました。

先輩からの「建築は潰しがきくからどんなデザインにも転向できる」というアドバイスと、

当時すごさが何もわかっていなかったけれど、

学校の創始者が日本建築の巨匠清家清先生だったこともあり

ここは建築の学校、もちは餅屋だ!という理由で選んだため、

建築のことがなにもわからないままに住宅を十件も選ぶのは至難の業でした。

 

そんなとき、いつもさぼりに通っていた図書館の建築書の中で出会ったのがこの本でした。

森の中の木々に囲まれた静かな二階の片隅にひっそりとおかれていたこの本に、

瞬く間に心を奪われました。

差し込む光や素材の調和、洗練された手仕事が随所に光るディテール、

見たことのない形が組み合わされて出来た居心地のよさそうな空間、

豊かな石造りの暖炉やたっぷりとしたソファーから眺めるイタリアの田舎の風景。

美しい時間と空気を作ることができるのが「建築」なのだと感動しました。

しかし住宅は10件も見当たらず、それもそのはずで、カルロスカルパは

日本のスクラップビルドとは対極的なヨーロッパの文化の中で保存改修に長けており

さらに彼の一番の名作と言えばお墓。(広い意味ではお墓は住宅とも言える気がしますね)

無知な私の小さな脳みそをフル回転させて彼と関わりがあると書かれていた、

ルイスカーンやマリオボッタ(日本ではワタリウム美術館があります。)の住宅を追加して

なんとか十件に達したのでした。

多分、課題の一番重要な狙いは、

図面の書き方を学ぶ事、住宅がどんな表現で書かれるかを知る事で

それに反して自分の好きな建築を見つける事に没頭してしまった私は、

初めて学校の課題で3日3晩の徹夜をし、一人だけインキングもできず、

なにがどうなっているかもわからないまま課題を提出したのでした。

それでも自分だけの宝物を見つけたような気分で、

見た事のない光や構成や世界観そのものに憧れて

時々モチベーションを上げたいときには図書館や書店に並ぶこの本に会いに行ったものでした。

 

5×緑の面接の日、この本ではないけれどスカルパの本が本棚に並んでいるのを目にしました。

なんとなく、色々な意味で大丈夫な気がして嬉しかった事を憶えています。

 

人生で一度は彼の建築に出会いたいなあ。

でも見てしまった後の自分はどうなるんだろう、どんな時に見に行けばいいんだろう、

そんな風に大切に思っている存在です。

 

 

「好きな本」のお題目に適っておりますかどうかあやしい内容ですが、

わたしのものづくりに対するときめきが詰まった一冊です。

ブログ印_YAM.jpgのサムネール画像

前のページに戻る
ページの先頭へ戻る